手荒れの季節になった。
食洗器のない我が家では台所のものはみな手洗いなので、策を講じないと冬季の私の指先は流血の大惨事となってしまう。だから洗い物にはゴム手袋が必須である。
今使っているゴム手袋が始末に悪い。
薄手だが作りはしっかりしていて、指先に滑り止めもついている。穿きぐちは切りっぱなしでなく縁が丸く厚めになっているので破れにくい。
今使っているものの前に使ったのはおろして間もないのに急いでつける時に引っ張ったら穿きぐちから破けてしまって悔しい思いをした。だから穿きぐちがしっかりしたものをと吟味して今のを買った。
ところが、である。脱着がしづらいのだ。
Mサイズを買ったのに、なんだかSなの?と思うほど狭い。つけてしまえばフィット感はいいのだけれど、いざっ!とつけようとすると手が通らない。外す時も外れない。
常に忙しがっている私には多大なストレスだ。
せっかく吟味して買ったけど、もっと着脱迅速な手袋が必要だ。と思い、買い物に行きたいのだけれど、今週はご町内のゴミ当番で、買い物に安全な時間帯に家を出られないのでまだ買えないでいる。
そして、今朝もウンウンと呻吟しながら手袋を穿く私だ。
昨日、実家に行ったら、こたつの卓の上に大きな知恵の輪が2つあった。
父が「やってみい」と言う。
いつもよく立ち話をする、工具の好きなご近所の方が手作りしたものをお借りしたらしい。
私は頭が悪いから、頭を使う遊びは苦手である。知恵の輪というものを買い与えられた記憶もないし自ら好んで手に入れたこともないが、この長い人生の間何度か手に取る機会もあって一度も解けたためしがない。
だが、父との潤滑な会話・交流を第一義としている現在、これは積極的にやってみるべきである。
5分ほど取り組んでみたが・・・やはり天性の頭の悪さ。どうにもならない。
「A(私の弟の名)は1分でしよったで」と唐突に父。なんでも、弟は前日仕事の合間に父の様子を見に来てくれたらしい。
弟のAは昔から頭がいい。保育園の時にあんまりひどい悪戯をするので、幾度となく母は呼び出しを受け叱られていたのだが、ある時IQテストがあって、弟の値は130くらいあったので、次の呼び出し叱責のときには、「IQがこんなに高いから私どもには及びもつかない悪さをするのですね」などと怒られてるのか褒められてるのかわからない嫌味を言われたというのが母の常々の思い出話だった。
そんな風に地頭がいいのに、我が家の複雑な家庭環境と現在の養父の学問をないがしろにする主義のために、弟は中卒で東京の電器屋に住み込みで働くことになった。
この職場では弟はいい様に搾取されていたみたいで見かねて両親が地元に戻るように促し、現在の電気工事の会社に就職して、そこで様々な免許を取得させていただいて県で表彰もされ、今は部長さんになった。たまに高専の講師に招かれたりもしているらしい。
弟が1分で解けた、と聞いても、そうだろう、Aならば解くだろう、と称賛するのみである。
貧困層なのに、私は身分不相応の大学に行き、弟は常に、「先に生まれたお姉ちゃんに頭の出来を吸い取られちゃったから、俺は出来が悪いんだよ」なんて言ってたけど、私は学校でIQをはかってもいつも100そこそこで、オセロでもはさみ将棋でもトランプでも負けて悔しい思いばかりだし、自分の頭の悪さを自覚しながら生きてきて、弟をうらやましく思って過ごしてきたのだと、弟は知らないのだ。
知恵の輪というのは、ある程度形に類型があるのかもしれない、といじりながら考えて、それならこのご時世だから、解き方の動画などあるのかな?とスマホでググってみたら、やはりあった。
それを何度も何度も見返して、ようやく1つの知恵の輪だけ解くことができた。解けたけれど、今度は戻すことができない。
借り物なので、元に戻さなければと焦る。5分ほど取っ組んで見てやっぱりわからないので、戻し方も動画にあるのか?と思い見てみたら続きがあった。これも何度も見て、やっと戻せた。
で、もうイッコの方に手を伸ばした。
すると父は「そっちはAはちょっと悩んどったけど、5分ほどで外したわ」と、また私をあおる。
構成は最初のと同じなので多分解き方は一緒なのだろうけれど・・・父がリハビリに行くまで途中昼食をはさみながらずっと考えてみたけれど、これが私の限界だった・・・
やっぱり弟は頭がいい。
で、父はと言えば、どちらも解けないのだった。
昨日は頼まれて買い物してきたものの代金をくれようとして、小銭入れから正しく出すことができなかった。
会話などはなめらかなのに、どうもやっぱり認知が怪しい。